北海道では縄文時代の多くの遺跡が発見されており、縄文文化が繁栄していたことが伺えます。
その後の弥生時代にオホーツク文化が生まれ、縄文文化と融合したものがアイヌ文化です。
アイヌ民族は、動物や植物など人間に自然の恵みを与えてくれるもの、火や水、天候など人間の力が及ばないものをさまざまな「カムイ」として敬い、独自の信仰や生活文化を発展させてきました。
独特なアイヌ文様を使った生活に密着した工芸品も生まれ、その技術は今もなお受け継がれています。
さまざまな種類があるが、なかでも有名なのは、「渦巻き文様」と、「括弧文様」です。
この二つの組み合わせと変化によって無限のデザインを生み出します。
病気などを防ぐ魔除けの意味もあるのだそうです。
北海道
二風谷イタ(にぶたにいた)
沙流川流域に古くから伝わる木製の浅く平たい形状のお盆のことで、アイヌ文様が木彫により施されています。
アイヌ民族では、刃物を巧みに使いこなし、狩猟のための弓や罠などの道具をつくることは男性にとって必須の能力。
その流れで木工は男の仕事だったのだそう。
アイヌの木彫り作品は古くから贈与、交換、販売という商取引でも高い価値が認められており、江戸時代には献上品として記録されていることから、当時すでにこの地の特産品だったことがわかります。
1873年(明治6年)にはウィーン万国博覧会にも出展されました。
お盆に使用される原木(主にクルミ、カツラ、エンジュなど)は3~4年にわたって強度を高め、変形を防ぐために自然乾燥させます。
その後、「モレウノカ」と呼ばれる渦巻きのような文様や「アイウㇱノカ」という棘状の文様、「シㇰノカ」という目のような文様を彫り、そのまわりに「ラムラムノカ」と呼ばれるうろこ模様を彫っていきます。
また、文様の表情を豊かにするために、主要な文様の周囲に二重線が施されます。
アイヌ文様の美しい組み合わせは伝統的なデザインなのですが、現代の私たちにはとても神秘的に見えますね。
制作工程
- 1.板取り
- 3年間乾燥させたクルミ、カツラ、エンジュなどの板の表面を平らにして、制作するサイズに切る。
- 2.型取り
- お盆の深さぶんの底を彫り、角を落として面取りをする。
- 3.文様彫り
- 下絵を描き、下絵に沿って線彫りをする。 文様の陰影を深めるようにくぼみを彫り、立体感を出して彫りの表情を豊かにするため、主要な文様の周囲に二重線を入れる。
- 4.ウロコ彫り
- 5.仕上げ
二風谷アットゥㇱ(にぶたにあっとぅし)
沙流川流域のアッニ(オヒョウ)などの広葉樹の樹皮の繊維を釜で煮て、干し、さらに細く裂いて糸をつくり、アットゥシカラペと呼ばれる機織り機を使って織っていきます。
男性がつくる二風谷イタに対して、こちらは家族に丈夫な衣服を着せるための女性の仕事でした。
江戸期には既にこの沙流川流域の物産として他地域との取引が行われていたそうで、二風谷イタとともに産品として重視されていたようです。
イザベラ・バードの『日本奥地紀行(1878年)』、そしてハインリッヒ・フォン・シーボルトの『蝦夷島におけるアイヌの民俗学的研究(1881年)』の中でアットゥシが紹介されています。
その後、生活に欠かせないものとして伝統的技術・技法が継承されてきたことに加え、1960年代から観光のみやげ品としても地域の生活・文化・経済に大きな役割を果たしてきました。
特徴としては、水に強く通気性に優れていること、天然繊維としては類稀な強靱さと草花で染められた独特の風合いを持っていることなどが挙げられます。
特に糸に撚りをかけるため、強さ、伸縮性、柔軟性に優れています。
制作工程
- 1.糸裂き
- 何層にもなっている樹皮の内皮を剥がして1枚にし、指先を使って2mm程の幅に裂き、糸状にする。
- 2.機結び・糸撚り
- 結び目を小さくするための結び方を施し、糸に撚りをかける。
- 3.受け糸取り
- 糸を織機にかけ、上下を交差させるように下になっている糸を取る。
- 4.機織り
ご紹介したこの2つは経済産業省の伝統的工芸品に指定されているものになりますが、ほかにもアイヌ文様を使った小物やガラス細工、木彫りなど伝統的な工芸品があります。
特に「木彫りの熊」ルーツと種類など、深掘りしたいですね。
また、アイヌの木綿衣のつくり方がありました。
ステッチなども丁寧に載っていますので、見ているだけでも楽しいですよ。